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子どもに学力を、教師にゆとりを
「IT新改革戦略」で探る、学校とITのこれから
富山大学人間発達科学部長の山西潤一教授に聞く |
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| 第3回 2006年5月22日付 本紙「IT特集」から |
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写真 :
山西 潤一 氏
富山大学人間発達科学部長・教授 |
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| 1950年富山県生まれ。大阪大学大学院博士課程修了。富山大学教育学部長などを経て2005年より現職。日本教育工学協会会長、日本教育工学会副会長のほか、県内外のコンピュータ利用教育に関する各種委員、情報基盤整備に関する審議委員なども務める。 |
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政府が1月に取りまとめた「IT新改革戦略」では、教育分野の目標として、「教員1人1台のコンピュータ整備」「IT活用指導力の向上」など4点を挙げている。ポスト2005年の教育の情報化は、これらを軸に進んでいくと見ていいだろう。今日の教育課題とITのかかわりをどう捉え、学校現場はITとどのような関係を築いていくべきなのか。富山大学人間発達科学部長の山西潤一教授に聞いた。
■学力とIT指導力のかかわり
2005年度を目標に進められてきた「ミレニアムプロジェクト」に基づく教育情報化施策は、学校の情報環境整備と教員のIT活用能力の両面で一定の成果を上げました。
一方、ここへきて教科指導におけるIT活用と子どもたちの学力や情報活用能力との関連に注目が集まっています。
この点について「IT新改革戦略」では、「教員のIT指導力の評価等により教員のIT活用能力を向上させる」という目標が示され、具体策として、教員のIT指導力を評価し処遇に反映させるという構想が盛り込まれました。
情報教育で先行する英国の調査研究では、教員のIT指導力が高いほうが子どもの学力も高く、教員の情報活用能力が高いほど子どもの情報活用能力も高いというデータがすでに出ています。
授業でのIT活用が、教科の内容理解や情報活用能力として子どもに返っていくことが実証されつつある以上、「IT活用などやってもやらなくても一緒」という姿勢では困ります。だからこそ、IT指導力の向上や評価が必要なのです。
今後の課題としては、どういう場面で使えば子どもの力を伸ばすことができるのかという点について、さらに情報共有を進めていく必要があるでしょう。また、コンピュータやプロジェクターも以前に比べポータブルで使いやすいものが増えるなど、テクノロジーの側も教育的に利用できるように変わってきていることを理解し、IT活用の可能性を積極的に捉えることも大切だと思います。
新改革戦略では、「教員1人に1台のコンピュータ及びネットワーク環境の整備並びにIT基盤のサポート体制の整備等を通じ、学校のIT化を行う」という目標も挙げられています。
「1人1台」の基盤整備は、IT指導力の向上はもちろん、校務の情報化や授業改善、情報モラル教育の推進にも関わる重要なポイントです。
電子自治体の取り組みが各地で進み、学校だけが特殊な世界ではなくなっていますし、個人情報の保護を始めとする情報セキュリティの重要性も指摘されています。こうした現状を考えれば、教員一人ひとりにコンピュータを与えるのは当たり前のこと。教員も日常の校務のなかでITを利用し、仕事の手段として使い込むことで、情報化そのものに慣れていかなければなりません。
教員用コンピュータの整備により外部とのコミュニケーションが深まり、教育活動の質が高まることも期待されます。他校の先生や学校外の組織ともネット上でコラボレーションし、教材研究や授業改善に共に取り組む。先生同士だけでなく、地域の人材との連携にも活用できるはずです。
さまざまな情報収集や校務、コラボレーションにITを利用し、先生自身が情報モラルの重要性やインターネットの安心安全の問題を身近なものとして体験することで、子どもへの指導にも現実味が出てくるでしょう。
新改革戦略でも「児童生徒の情報モラルを含む情報活用能力の向上」が指摘されているように、情報化の影の部分への対応は緊急の課題です。
いまや7割以上の子どもが小学校段階でインターネット利用を始めるというデータがありますし、一部のネットゲームでは、子どもが金銭のやりとりをするケースも増えています。問題は、こうしたネット利用の多くが保護者の監視下になく、子どもが何をしているのか誰も知らないことです。
小学校では交通安全教育の場で、横断歩道の渡り方や自転車の乗り方を指導しますが、それは現実に子どもが危険に晒されているからです。ところが、インターネットについてはさまざまな危険が指摘されているにも関わらず、安全教育は普及していません。
私は、小学校段階から子どもにも保護者にも、情報モラルやネットの安心安全、リアルとバーチャルの区別について指導する必要があると考えています。それも「危ういものに近づかない」というだけでなく、どんな危険性があるか具体的に知らせることが大切です。
こうした指導の場では先生自身のネット体験が生きてきます。私はネットゲームを詳しく知らないので学生に頼んで画面を見せてもらったりしていますが、こうしたネットの現実を知り問題点を考えることが、安全教育の基礎だと思います。
もう一つ、情報化の「影」として私が憂いているのが、手を使う、ものを考えるといった実体験の不足です。
例えば検索エンジンを使えば知りたいことはすぐにわかりますが、ネット上の情報だけを使って答えを導き出すのでは、自分の頭を使って考えるプロセスがありません。集めた資料を自分で処理し、自分の情報として再加工するための訓練が必要なのです。
■教師のライフスタイル改革
これは授業でのIT活用にもかかわる問題でしょう。わかりやすいデジタル教材を見せることは大切かもしれませんが、それが「答え」を見せる結果になっていないか。子どもたちが自分で考える場面や時間をつくるという配慮が欠かせません。
また最近の学生を見ると、本を読んだり文章を書いたりする体験が不足している印象もあります。情報社会で求められる情報発信力とは基礎的な国語表現力のことです。情報化のなかでこそ、読む・書くといった国語の力を鍛える実体験が求められるのではないでしょうか。
最後に、「1人1台」の環境をベースにした校務の情報化が、先生方のライフスタイルを変える可能性も指摘しておきたいと思います。
いま多くの先生は、私物のノートPCを学校でも使っているでしょう。だから、家庭も学校も全部が「職場」になってしまう。コンピュータは仕事の効率化やスピードアップに役立ちますが、使う側が「公」と「私」の時間管理を曖昧にしてしまうと、四六時中働いているような感覚になり、時間的ゆとりも、心の余裕も失ってしまいます。教師のゆとりのなさは子どもにも伝わるものです。いま日本の社会も学校現場も、どこかあくせくしているように見えるのは、こうしたことが背景にあるのではないでしょうか。
その点、1人1台の職場用のコンピュータがあれば、仕事が終わったらコンピュータを閉じて、あとは個人の時間として過ごすことができます。
情報化のメリットというと、省力化や効率化が強調されますが、教育の情報化の目的はそれだけではないはずです。子どもと触れ合う、コラボレーションして授業を改善し教育の質を高める。そのための時間とゆとりを生み出すような情報化であってほしいと期待しています。(完)
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写真 : すでに「教員1人1台のPC整備」が済んでいる学校では、校務の効率化により教師が子どもと向き合う時間を生み出している |
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