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インタビュー
フードファディズムと学校の食育
高橋久仁子・群馬大学教育学部教授に聞く
第2回 2006年4月12日付 本紙「食育特集」から
食品構成の例1800kcal
食育への関心の高まりとともに、フードファディズム(Food Faddism)が教育現場にも及び始めた。この問題に詳しい群馬大学教育学部の高橋久仁子教授に、その問題点や、情報に振り回されない「食」教育のあり方を聞いた。

フードファディズムとは、食べ物や栄養が健康や病気に与える影響を過大に信じたり評価することをいう。ある食品や食品添加物をいたずらに危険視する議論はその代表だ。フードファディズムは時に食生活を混乱させ、健康被害につながりかねない。
高橋教授がこの問題に取り組むきっかけとなったのは、「砂糖は骨を溶かす」という一方的な砂糖有害論だった。そこから食品に関するおかしな情報に目を向けたところ「食べ物に関するウソ情報」が溢れかえり、学校教育の中でも教えられていることを知って愕然としたという


教育現場を見ますと、学習指導要領に縛られずに独自の授業をやりたい、子どもたちに印象づけられる授業をしたいと思う教員ほど、ウソ情報に惑わされているように見受けられます。食べ物のからだへの好影響と悪影響を極端に言い立てる教育であっては困るのですが、どちらかの極論に与した授業の方がインパクトがあってやりやすいのでしょうね。
例えば、有害食品添加物一覧表を暗記せよ、というような教育は困る。今は基本的に有害な食品添加物は使われていませんから、有害か無害かを論じることは無意味です。それよりも食品添加物に投げかけられる疑惑や疑問にどう正しく答えるか―に論点を絞るべきです。
食に関する教育というのは、マスメディアの食情報の扱い方が象徴しているように、「良い食品」と「悪い食品」に分けてしまった方が扱いやすい。しかし、食品自体に「良い」「悪い」はありません。カップラーメンも大衆の支持を受けた立派な文化ですよ。ファストフードも楽しめばいいではないですか。野菜を補足して食べるとか、要は、食事全体の中で考えればよい。
有害物質の混入や汚染がない限り、すべての食品は安全であり、常識的な分量を食べていれば有害ではあり得ないということは保証されています。砂糖、食塩、油類を摂取し過ぎて病気を招くのは食べる側の責任なのですから。どうか食品そのものを悪者にしないでください、というのが学校栄養職員や栄養教諭の方々への私のお願いです。

食育基本法制定に呼応するかたちで、食品メーカーの出前授業や、学校とタイアップした料理体験教室の開催がさかんだ。高橋教授はこの動きをどう見ているのだろうか

食品メーカーが行っている出前授業にはくれぐれも慎重であってほしい。時に断る勇気も要りますね。スナック菓子類で言えば、食べなくても生きていける嗜好品ですから食生活全体を考えて節度ある食べ方をしっかり教えないと、子どもたちは食べ過ぎになってしまいます。企業が行う出前授業の学習内容をよく見極めることが大事です。
例えば、ポテトチップスやフライドポテトのような炭水化物とタンパク質を含む食材を高温加熱した食品にはアクリルアミドという発がん性を持った化学物質が生成しています。そのことに触れないような出前授業であれば、子どもたちに伝えるべき大事な要素を回避していることになり、教え方としておかしい。
「バランス栄養食品」と称する製品は、オイルがたっぷりのクッキーにビタミンやミネラルを添加したもので高カロリー・高エネルギーですよね。製品の呼称からバランスの取れた食事の代替になると思って食べ過ぎると、エネルギー過多、栄養の偏りを招きます。しかし、登山のときにリュックにしのばせるとか、良い面を承知して非常食などに利用するのであれば、これはすばらしい食品です。食品によって毎日摂取することの良し悪しや食習慣を見直すこと、食品の特質を見極める授業を展開してほしいと思いますね。

05年4月に発足した栄養教諭制度は広がりを見せ、福井、高知の両県に続いて今後、大半の自治体が栄養教諭の採用に踏み切るとみられる。期待は大きい。半面、高橋教授は家庭科の授業時間削減の中で「どうやって授業をするのかと懸念を示す。栄養教諭が果たすべき役割は何か、子どもたちに伝えてほしいものは何か、を聞いた

食事の基本は「ご飯、みそ汁、おかず」です。和風の食事という意味ではなく、要するに、洋風であっても主食としての穀類、主菜としての動物性食品(肉か魚)、副菜としての植物性食品(野菜)。これがそろってこそ食事と言えるのです。
私たちが食と健康に関心を持ち始めるのは、健康に不安がきざした頃からです。そうでない人に食育の重要性を説いてもあまり意味はない。とくに子どもは家庭であてがいぶちで食べているわけですから、食べ方についてアレコレ言っても身に着きません。それよりも、親が「普通の食事とはこういうもの」ということを子どもの骨身にしみ込ませることが大事。子どもが親元を離れて自活したときに、「ごはん、みそ汁、おかず」の基本形を忘れずに、自然に一食を作れるようにすることが親の責任であって、これをサポートすることが栄養教諭の仕事ではないでしょうか。
また、子どもたちが成長して、あるいは子どもを育てる立場になって、何をどう食べればいいのだろうと切実な疑問を抱いたときに、手軽にアクセスできる教材があればいいわけで、それは高校の家庭科の教科書で十分なのです。
このような基本的な情報はフードファディズムに埋もれて見えにくくなっています。ですから、栄養教諭は普通に食べるということの概念なりモデルをきちんと作り、そうした食生活が健康につながるということを伝える立場であってほしいと思います。家庭科の授業時間削減はそういう意味でマイナスの影響が大きい。
私は1日の摂取カロリーが1800キロカロリーで、たんぱく質が60〜65グラム、野菜、ビタミンが摂取できる食品構成を提案しているのです。これは年齢に関係なく、成長期を除くすべての成人に当てはまる基本です。もっとエネルギーが必要な人は、これをベースにご飯や油等を増やしてカロリーを上げればよいわけです。
この食品構成さえ覚えておけば、誰でも簡単に煮炊きして食べられます。私は「煮炊きする」という言葉をぜひ復活させたいと考えています。瑣末な情報に右往左往したり、食品添加物を気にしなくても、スーパーで肉、豆腐を買い、ネギや白菜を刻めば簡単に肉豆腐ができるのですよ。普通に食べるとは、どういうことなのか―。こういうことを栄養教諭は子どもたちに教えてほしい。
日常の食生活を土台に置いたとき、ある食品に含まれている微量な成分の働きなどは、話題として聞いておけばよいことと、私は認識しています。(完)

食品構成の例1800kcal
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